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「ヒトの保護及び管理に関する法律」
・研究目的以外での飼育、許可のない販売、生きたままの許可なき運搬を禁ずる。
・研究目的以外での繁殖を禁ずる。
・研究目的以外でヒトに言語を教えることを禁ずる。etc...
野生個体及び許可のない飼育等を発見した場合、ただちに行政に連絡すること。
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◇序章
早朝から降り出した雨は、ディランがようやく仕事を終えた真夜中まで続いていた。
街で一番大きな病院の割にはずいぶん貧相なつくりの裏口の扉。半分開いたそこからそっと半端に顔を外に出すと、冷気と雨の雫がディランの白い毛並みに叩きつけてくる。体格の割に小さな耳が勝手にブルっと震えた。
もう冬が近いな、と。ぼんやりしていたからか。
「いっ……!」
外に出ようとして出口の上部に派手に頭をぶつけ、悶絶する羽目になる。自分の身長では軽く屈まなければそうなると分かっていたはずなのに。
幸い周りには誰も——いや、看護師がひとり。「お大事に、マイヤーズ先生」と嘴を抑えクスクス笑って、見事な長い尾羽を揺らして先に出て行った。
じんじんと響く痛みを堪えつつ、ハイと弱々しい返事をして見送るしかない。
シロクマ型の獣人ゆえ、他の同僚たちより群を抜いて大きな自身の体躯を自覚していないわけではない。が、何かにつけて気が抜けて、頭やら肘やら膝やらをぶつけて痛い目を見てしまう癖は直らない。昔から。
『大丈夫ですか? ドクター』
だから。
懐かしいあの柔らかな声を、こうして度々思い出す羽目になる。
毎度のことすぎてもはや誰もが苦笑で済ませる中、律儀にいつも真面目に心配してくれていたあの子を。
黄金の稲穂のように見事な髪。海のように深い青を宿した目。
つるりとした白磁の肌。
獣人の自分たちとはまるで違う彼の姿を、声の次にひとつひとつ思い出す。
「……帰ろう」
延々と思い出に耽り座り込んだままになってしまう前にと、無理やり声に出して立ち上がった。
傘立てから自分のものを見つけ出し、緩慢に抜き取る。
冬が近付くといつもこうだ。奥底にしまった忘れられない記憶がとめどなく溢れ出てきて、ディランの思考も足もがっちりと止めてしまう。
——いや、そもそも。
本来なら片時も忘れてはいけないものなのだ。「あの子」のことは、自身が犯した罪の記憶と直結しているのだから。
それなのに普段は忘れたふりをして、なかったことにして、知らないふりをして。
「世間一般的な普通の獣人」のふりをして生きている自分が、ディランは何より嫌いだった。
◆ ◆ ◆
かつてこの世界は、「ヒト」と呼ばれる生き物が頂点に君臨していたらしい。
そして獣人たちの先祖に当たる「動物」たちを支配し苦しめていたという。
だが、やがて動物たちは「獣人」へと進化していく。ヒトと獣人は何度も何度もぶつかり合い、争いを繰り返すうちにいつしか獣人が優勢になる。同等の知恵とヒトよりも強靭な身体を持つ獣人に敵わなくなったヒトは徐々に衰退し、今のように——絶滅危惧種にも等しい存在となった。
何の因果か、獣人たちの中には稀にヒトによく似た容姿の「ヒト似獣人」も生まれる。しかし彼らはその外見のせいで長く迫害を受けてきたし、現代においても著しく社会的地位が低い。「ヒトに似ているから」それだけの理由でだ。
もはやかつて頂点生物だった頃の面影はなく、知性も言葉も失いぼんやりと研究所で飼育されるだけ。
過去に自分たちの先祖を苦しめていたらしい、珍しい生き物。
この世界に暮らす獣人にとって、ヒトという生物はそういうものだった。
『ヒトを繁殖させ、不正に売り捌いていたとして◯◯グループの会長が逮捕されました』
「この手のニュース、尽きないな」
交差点の信号待ち。
左手に傘を持ち、右手に持った携帯電話でテレビニュースを見ていた垂れ耳のウサギ獣人が、隣の短毛な灰色のイヌ獣人に向けてボヤく。
「そうなあ。ヒトの飼育やら繁殖やらは研究目的以外は犯罪って決まってんのに、なーんでやらかすのかね。ダメって言われるとやりたくなんのかな?」
「子どもじゃないんだぞ。理性働かせろってんだ」
見たところ二人ともまだ学生のようだが、アルバイト帰りか何かだろうか。傘に隠れて気付かれない程度に横目を向け、悪いと思いながらもディランは彼らの会話を盗み聞きしてしまう。
「そもそもそういう連中、飼育っつってもマトモな飼い方しないだろーにな。なんかホラ……アレしたりコレしたり、神サマ激怒案件なことに使うためだろ?」
「やめろ想像させるな。そんなとこまで僕は興味ない」
「そう? でもあれだな、ヒトって取り締まりめっちゃ厳しいよな。こっそり飼うとかもだけど、言葉教えるのもダメだし」
「元々ヒトは賢いらしいからな。言葉覚えてヒト同士で結託されたら厄介だろ」
「俺まえに特別展示でヒト見たことあるけど、あんなポケーっとした生き物にそこまで知恵あるかねえ? 確かにヒト似獣人マジそっくりとは思ったけど……あっ、もし野良ヒト見つけても生きたままその場から動かすのもダメなんだろ?」
「そう。触れず騒がず、即通報だ。特定外来生物みたいなもんだよ。ていうか野良ヒトなんて都市伝説級の話だぞ。脆弱すぎて野良で生きていけないだろ」
「はーあ。かつての頂点生物サマが哀れなもんだな〜。じゃあアレか、【北の楽園】の噂なんてそれこそマジの都市伝説じゃんね」
どきり、と心臓が跳ねる。
傘を持つ手が震えてはいないか、側の二人に気付かれてしまうのではと密かに焦った。
「はあ? 【北の楽園】て……お前、そんなくっだらない噂話信じてたのか?」
「いや信じてはないなー。でもさ、獣人とヒトが仲良く暮らしてる楽園がどこかにあるらしい……なんて。フィクションとして面白いじゃん。種族は違っても通じ合える! 的な。俺そーいう感動的なハナシとか好きなんよ」
「……まあ、分からんじゃない。子ども向けとかではよく見るよな。弟たちが見てるアニメにもそういう設定出てくるし」
「それ俺の趣味がガキっぽいって言ってる?」
「いや? 僕も嫌いじゃないからな」
信号が青に変わった。
ウサギ獣人の青年はすぐに携帯を閉じ、イヌ獣人の青年も話は終わったとばかりに伸びをして歩き出す。
当のディランはと言えば、例によってすぐには動くことができず。後ろからフードを被ったカラス獣人に追い越しついでにぶつかられ、舌打ちをされて初めて我に帰った体たらく。
すみませんと謝る暇もなければ、正直その気も湧いてこない。のろのろと足を動かし、交差点を渡る。ディランの住むアパートメントはもうすぐそこだが、このままではボンヤリと通り過ぎてしまいそうなくらいには心ここに在らずだった。
傘を叩く雨の音が、少しずつ強くなる。雨はまだまだ止みそうにない。
『ドクター、これはなんですか?』
初めて傘というものを見た時、「あの子」は未知の道具に目を輝かせていた。
彼は生まれた時からずっと屋内しか知らない。ゆえに雨を経験したことがなく、傘など使う機会があるはずなかった。
他の子たちも興味はあるようだったが初めて見るものに触れるのも怖いのか、彼の後ろに隠れるばかり。青い目を晴れた海のようにキラキラと輝かせて傘を手に取り、使い方や他にも種類はあるのかなど訊ねてくるのは「あの子」だけだった。
——本当に、ヒトという生き物は自分たちと同等に賢く器用だったのだと。
——自分たち獣人と、たいして変わらないのだと。
彼と関わるたびにディランは思い知らされていた。
ならばいま自分が彼らにしていることは何なのだろう。許されないことなのではないか。あの頃のディランはそんな思いに押しつぶされそうになっていた。
楽園と、世間ではそう呼ばれている場所にいたにも拘らず。
【北の楽園】。獣人とヒトが仲良く暮らせる場所。
都市伝説上勝手にそう言われているにすぎないが、皮肉な方向で考えれば的を射た表現だったかもしれない。確かにあそこでは、獣人とヒトは笑顔を向け合っていた。「仲良く」していた。
その方法が、理由が、どんなに獣人だけに有利で勝手なものであったとしても。
『俺たちはお役に立てていますか?』
日に日に弱り、数を減らしていく子どもたち。その姿に耐えられなくなったのはいつからだろう。
それでも何も知らない無垢な彼らは、「あの子」は、そう言って笑いかけてくるから。心が切り裂かれるようで。だから。
だから、あの日————
「……えっ?」
辛うじて、アパートを通り過ぎるなどというヘマはしなかったディランだったが。
エレベーターを降りてすぐ目の前の自室の扉に手をかけたところで、ぐるぐる巡っていた思考がぴたりと止まった。
鍵が、開いている。
ぞわりと毛が逆立った。
家を出る時にもしかして閉め忘れてしまったのかと一瞬不安が過ぎったが、確かに鍵を回す音を聞いた記憶がある。誰かが不正な手段で鍵を開けて中に入ったとしか思えない。
「……、……」
落ち着けと自分に言い聞かせ、唾を飲み込んだ。
まだ、その誰かは中にいるだろうか。泥棒だとすれば、とっくにことを済ませて出ていってくれていればまだマシなほうだ。もしまだ中にいるのなら——確実に、ろくでもない目的で居座っているだろう。
最悪の事態も想定しつつ、ディランは音がしないよう気を付けながら恐る恐る扉を押し開けていった。半端なところで一度止め、様子を伺う。……特に、何も起こらない。
扉のすぐ向こうで誰かが息を潜めている可能性も考えたが、息遣いなどの些細な物音はこうも雨音が激しくてはかき消されてしまうだろう。埒があかない。ディランは一度大きく息を吸って、細くゆっくり吐き出した。
そしてわざと派手に思い切り扉を開く。
玄関、そしてここから見える範囲内に限っては誰もいない。電気がついている様子もなかった。
念のため武器がわりに手にしていたほうがいいかと、傘を玄関に置くのを躊躇う。後ろ手に扉を閉め、鍵はそのままにしておいた。いざという時すぐに飛び出せるようにだ。
雨の雫が滴る傘を右手に握りしめたまま、リビングへと慎重に足を運ぶ。
あまりにも静かだ。やはり、もう侵入者はやることを済ませて出て行ってしまったのだろうか。とすれば部屋はかなり荒らされているかもしれない——そんなことを考えながら、リビングに一歩踏み入った瞬間。
「おかえりなさい、ドクター」
凛とつめたい声が響いた。
次いで、パチンと頭上でライトが点灯する。急な眩しさに目が眩み、ディランの思考と同様に真っ白になった。
ある程度は成長した男の声、のように聞こえた。おそらく、覚えのある声ではないはずだ。なのに——ディランの心臓はどくどくと激しく脈打っていた。無意識に、傘を手放してしまうほどに。
ドクター、と。
声の主はそう呼んだ。
遠い記憶の中、無垢な笑顔とまっすぐこちらを見つめる青い目が蘇る。
当時はまだ幼く高かった声で、自分をそう呼んでいたのは……
「……大丈夫ですか?」
たっぷり時間が経ち、とっくに明るさにも目が慣れたはずなのに。微動だにできないディランへと「彼」は、そっと声をかけてきた。
首の横で括った長い金髪が肩を流れる。シルクにも似た艶髪の隙間から、平べったく小さな楕円状の独特な耳が覗く。
獣人とは全く異なる、つるりとした真白い肌。根本から異なるはずのこちらの美的感覚を以てしても、芸術的に整っていると本能で感じる美しい顔立ち。
「……、……アダム……?」
我知らず、その名を呼んでいた。満足そうに目を細め、彼は「はい」と肯定する。
思い出の中に秘めていた幼い「あの子」が。
空白の時間のぶんだけ成長した姿が、そこにはあった。
深海のように深く青い目と正面から視線が絡んだ瞬間、ディランは冗談抜きに膝から崩れ落ちる。
「ドクター、本当に大丈夫ですか?」
リビングの真ん中に立っていた彼——アダムが、形のいい眉を下げて歩み寄ってきた。
「確かにお久しぶりですけれど、そんなに驚かなくてもいいのに。幽霊などではありませんよ、俺は」
「っ……アダム、なのか……? 本当に……?」
「はい。あなたがよく知る【アダム】です」
それはまるで絵画のように完璧な、貼り付けた美麗な笑みで。
鍵が開いているのに気付いた時以上に総毛立ち、ディランは震える手で自身の膝を強く掴む。
「……ああ」
それを見たアダムが、合点がいったとでも言わんばかりに頷いた。操り糸にでも引っ張られたかのような、温度のない動きだった。
かつて彼が纏っていた優しく温かな空気は、ない。まったく。
理由など聞かずとも明白だ。
「驚いたというより、怯えているんですね。何の力も持たない、脆弱なヒトの俺に。獣人のあなたが」
すぐ目の前にアダムが膝をつく。
「俺に恨まれているかもしれない。その自覚はあるんですね、ドクター」
「っ」
息が止まる。獣人のそれに比べはるかに薄く脆い爪と皮膚に覆われたアダムの指先が、ディランの手に触れた。
久しぶりのヒトの感触。体温が急激に抜けていくような感覚に襲われる。
この手が今より遥かに小さかった頃。
手を繋いで、誰にも見つからないよう気を付けて、セキュリティを潜り抜けて。
無垢な青い瞳は不思議そうにディランを見上げていた。どこに行くのかと訊ねられたが、最後の扉を開くまで何も答えることができなかった。
「あの時、この手を離されるなんてまったく思っていませんでした。【俺たち】に優しかったあなたに、まさか——」
半端なところでアダムはふと唇を閉ざす。そうして一瞬消えた笑みを、より無機質に貼り付け直して。
「捨てられるなんて」
——五年前の光景が、脳裏に蘇る。
ひどい吹雪の夜だった。どうしてももう耐えられなくて、目の前で繰り返される悲劇から逃れたい一心で。
訳が分からないと呆然とした顔をまともに見ることもできないまま、逃げてくれと一言。無理矢理施設の外に押し出して、扉を閉めてしまったあの日。
ヒトを【実験生物】として扱う【楽園】から、アダムたち小さなヒトを逃がしたあの日を。
「アダム……っ、僕は……!」
「お静かに」
何を言おうと決まっていたわけではない。
ただ咄嗟に上げかけただけの声は、アダムの細く長い指に押し留められた。
「あの子が目を覚ましてしまう」
「……え?」
「久しぶりにぐっすり眠れているんです。しばらく、そのままにしてあげてください」
アダムの言葉にディランはぎこちなく首を傾げたが、彼の視線がソファに流れたのにつられ目を見開いた。
シンプルな紺色のソファの上、暗赤色のワンピースを着た幼い少女が丸まって眠っていた。
アダム同様に頭髪以外に体毛の見受けられない肌を見てヒトかと思ったが、黒い猫の耳と尻尾があるのにすぐ気が付いた。彼女はヒト似獣人——だろう。まだ十歳くらいに見える。
「彼女、は……?」
「……妹のようなものです」
アダムがそれ以上を語ることはなかったが、ヒトと行動を共にするヒト似獣人の少女など当然身寄りもないだろうと想像がついた。
ひと昔前ほどではないとはいえ、ヒト似獣人の社会的地位は未だに低い。深い意味もなく差別され、治安の悪い土地では下手をすれば「耳と尻尾を落とせばヒトと偽って高く売れる」などという最悪な理由で襲われる。
特に子どもは価値が高く、真っ先に狙われがちだ。親を殺されたか先に売られたかの中、からくもひとり生き残ってしまった子どももすぐに悲惨な末路を辿るのがセオリー。
彼女もまた、そうなりかけた子ではないだろうか。
かつて【楽園】の子どもたちの中で一番年長で、長兄的な存在だったアダム。
幼いヒト似獣人の少女を優しく見つめるその横顔には、あの頃の面影が色濃く見えた気がした。
「ドクター」
ぼんやりとしている場合ではないぞ、とばかりに。平らな声に現実に引き戻される。
「俺がわざわざこうして、あなたを探し出して会いに来た理由が分かりますか?」
「あ、……」
口元に、ヒト特有の柔らかな皮膚の感触。
突きつけた指でそのままディランの口の縁をなぞる仕草は、ヒトがするにしては異様に蠱惑的だった。
まるで熟練の娼婦のようだと感じてしまい、ディランは自分でもよく分からないまま反射的に首を振る。奇しくもその仕草はアダムの問いに答えた形になってしまい、彼の失笑を買うこととなった。
「そうですか。じゃあ、ちゃんとお伝えしますね」
引っ込めた指先をペロリと小さな舌で舐めてみせる。
……こんな振る舞いをする子ではなかったはずだ、と思った。思って、すぐに自分を殴りたくなった。当たり前だ。あの頃のアダムは何も知らない、まっさらで無垢な「賢いだけのヒトの子」だったのだ。
五年の間に何があったのかは分からない。一緒に逃したはずの他の子どもたちはどうなったのかなど、アダムがこうしてヒト似獣人の少女だけを連れている時点で聞くまでもない。
野良ヒトなどそれこそ都市伝説だと、さっき聞いたばかりではないか。
つまり、後ろ盾のない状態で野良のヒトがこうも長く生き延びるには。
——先ほど出会ったイヌ獣人が言うところの「神様激怒案件」な扱いに身を委ねるほか手段はない。それ以外に、思いつかない。
今更そんなことに気が付いて、血の気が引く思いがした。
「俺はずっとあなたに会いたかったんです。会って、もう一度話をしたかった。それだけでもいいと、思っていたんですが」
再びアダムの手が伸びてきて、膝を掴んだままのディランの手の甲に重ねられた。
「……俺だけでは、無力です」
伏せられた長い睫毛の下。その目線はソファに眠る少女へと微かに動く。同時に落とされた言葉に刹那、温度を感じてディランは顔を上げた。
その時にはもう、アダムは絵に描いたような美しい模造品の笑顔を貼り付けていた。
「ねえ、ドクター。俺をもう一度お側に置いてください。あなたしか頼る先がないんです。また、前と同じようにお役に立ちますから」
「アダ、ム」
「昔と違うお手伝いも、今ならできますよ?」
細い指がゆっくりと、蜘蛛の糸のように絡んでくる。
間抜けにも遅れてその言葉の意味を察し、ディランは危うく叫び出すところだった。
不正に手に入れたヒトを性的な目的で使う獣人が少なくないことは、当然知らないわけではない。
だが知性と理性ある獣人でありながらヒトと交わるなど、あのイヌ獣人が言う通り神の怒りに触れる行いだ。ヒトが支配者だった時代も、逆の行いを罪としていたはず。
しかし、アダムは既に知っている。
罪だの許されないだのただの建前だ。ヒトなどそうやって玩具同様に獣人に消費され、奇跡のような確率で生き延びるしかない存在なのだと、身をもって知っている。
——あなたもそうしたいのなら、喜んで。
——だって形は違えど、俺の身体をいいように使ってきたでしょう?
そう言わんばかりに愉快げに唇の端を吊り上げて、アダムは動けないディランの首に抱きついてきた。
「今度はもう捨てないでくださいね、ドクター」
締め切ったままのカーテンの外、更に強くなった雨が窓を叩く。
だがディランの耳には雨音などまるで聞こえていなかった。ただアダムの囁きが遅効性の毒のようにじっくりと、心身を冷やしていくばかり。
ああ。
大嫌いな自分に相応しい地獄が、目の前で口を開けている。
肯定も否定も、何の返事もできないまま。
ディランはぴったりと密着してくるアダムから伝わる、規則正しい心臓の鼓動だけを感じていた。
***
序章ここまでです。
こうやってディランとアダム&ジェッタの同居生活スタートしましたという話で、この後のアレコレはAJJ本編のほう完結後にガッとどこかのサイトに掲載していこうと思ってます(すでに五万字くらい書いてる)
R18なんでムーンライトノベルスあたりかなと…
そしていずれ個人的に本にする!!これは絶対に!!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
そんでウェーブボックス作ってみたので、なんかぽちぽちしてやって頂けましたら喜びます🙌